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Studio thonikとは

1993年にNikki GonnissenとThomas Widdershovenによって立ち上げられたアムステルダム拠点のデザインスタジオです。「the power of design」をコンセプトに、ブランドの目的を達成するため、デザインを“ビジュアルストラテジー”として実装することを重視。ミニマルな構成の中に強いコントラストとタイポグラフィを使ったビジュアル言語を得意とし、文化施設や美術館などカルチャー領域のクライアントが多いです。主なプロジェクトに「シティ・オブ・アムステルダム」「M+」「ダッチデザインウィーク」などがあります。
SHIFTBRAINのアートディレクターが選ぶ、thonikのイチオシ事例
事例1:Phion Symphony Orchestra

Phion Symphony Orchestraは、オランダを拠点とする交響楽団です。thonikは、楽団の新しいブランドアイデンティティを制作し、「音楽そのものを文字で表現する」というユニークなアプローチを採用しました。
印象的だったのは、指揮者のタクトの動きをタイポグラフィへ取り入れている点です。ベースとなる書体「GT Planar」を独自にカスタマイズし、大文字が音楽に合わせて揺れ動き、それに続く文字も自然に呼応するよう設計されています。そのため、静止したロゴであっても演奏中のリズムや躍動感が感じられるアイデンティティとなっています。
また、このシステムはポスターやデジタルサイネージ、Webサイトなどさまざまな媒体へ展開され、音楽が持つダイナミックな表現を一貫して伝えています。音楽を視覚的に表現するだけでなく、楽団そのものの個性をタイポグラフィによって表現している点が特徴的でした。
このプロジェクトは、その革新的なタイポグラフィが評価され、Type Directors Club(TDC)の「The World’s Best Typography」に選出されています。デザインとは音楽を飾るものではなく、その本質や動きを視覚化する手段でもあることを示した、thonikらしい事例だと感じました。
事例2:アムステルダム市

アムステルダム市では、部署やプロジェクトごとに独自に作ったロゴを無数に使用しており、当時50種類ものロゴが存在し、市民にとって行政の全体像が分かりにくいという課題がありました。また、組織内部でも統一感がなく、バラバラのアイデンティティで活動していました。
thonikは、この混沌を解決するために「新しいロゴを作る」のではなく、「アムステルダムに昔から存在する象徴」に立ち返ることを提案しました。市民に長く親しまれてきた市の紋章をブランドの中心に据え、市役所こそがそのシンボルを最もシンプルに使うべきだと提案。アイデンティティを統一し、市全体のブランドを再構築しました。
その結果、アムステルダムの紋章(3つの×印が入ったもの)は、今では街中のどこにでもあり、市民が心から愛しているシンボルとなりました。クロケット(コロッケ)の袋や博物館の看板まで、どこにでも使われているほど浸透したのです。
また、流行に左右されないモダニズムなタイポグラフィを採用し、後にカスタムフォント「Amsterdam Sans」へと発展しました。25年以上経った現在も使われ続ける、普遍的なデザインを生み出しています。
事例3:Dutch Design Week 2025

Dutch Design Weekは、オランダ・アイントホーフェンで毎年開催される北ヨーロッパ最大級のデザインフェスティバルです。thonikは2021年からビジュアルアイデンティティを担当しており、2025年は25周年という節目に合わせてブランドシステムをさらに発展させました。
印象的だったのは、「新しいロゴを作る」のではなく、約20年間親しまれてきたチューリップのロゴをブランド全体へ発展させている点です。チューリップを構成するシンプルな幾何学形状をもとに、新しいタイポグラフィを開発し、ロゴだけでなくポスターやWeb、モーションまで展開できる柔軟なデザインシステムを構築しています。
また、この書体はオランダを代表するグラフィックデザイナー、Wim Crouwelが1963年に制作したポスターから着想を得て設計されています。thonikはCrouwelの幾何学的で実験的なタイポグラフィを現代的に再解釈し、オランダのデザインの歴史とDDWの新しいアイデンティティを結び付けました。
この事例からは、ブランドとは過去を一新するものではなく、長く親しまれてきたシンボルやデザインの歴史を受け継ぎながら、未来へ向けて進化させていくものなのだと感じました。
事例4:Schiphol Airport

スキポール空港では、「世界を旅する人々のホーム」というブランドコンセプトを定義し、その考え方を軸に空港全体のアイデンティティを設計しました。
このプロジェクトの目的は、単にロゴを刷新することではなく、世界中から人が訪れる巨大な公共空間において、旅行者の体験そのものを再設計することでした。
当時の空港では、搭乗券やアプリ、Webサイト、館内サインなどで名称や表記が統一されておらず、利用者が混乱しやすい状況にありました。また、広大で無機質な空間には温かみが感じられず、案内やデジタル導線もそれぞれが独立して存在していたため、一貫したブランド体験が生まれていませんでした。
そこでthonikは、空港コードである「AMS」をブランドの共通言語として整理し、「世界中の人々が集まる家」というコンセプトをもとに、サイン、デジタル、空間デザインまでを横断するデザインシステムを構築しました。さらに、インテリアには温かみのある色彩を取り入れ、巨大な空港に親しみやすさを与えています。
印象的だったのは、提案の進め方です。参考となるデザインを提示するのではなく、現在のサインや導線がどれだけ分断され、利用者を迷わせているのかを可視化し、まず課題そのものを共有しました。その上で、「デザインは見た目を整えるものではなく、人と組織、そして体験をつなぐインフラである」という考え方を示し、クライアントの理解を得ていったそうです。
このプロジェクトは、デザインが単なるビジュアルではなく、複雑な公共空間の体験そのものを支える仕組みになり得ることを示した、thonikの思想を象徴する代表的な事例でした。
Studio thonikのものづくり
今回お話を伺ったのは、創設者兼クリエイティブディレクターのNikkiさん、Thomasさんの2人です。

デザインは「ロゴ」ではなく、「仕組み」をつくること
Studio thonikはどのような会社ですか?
私たちは、自分たちのことを「ブランディングエージェンシー」ではなく、「デザインエージェンシー」だと考えています。ただ見た目を整えるのではなく、デザインを戦略的なツールとして捉えているからです。従来のブランディングでは、ロゴを決められた場所に決められたサイズで配置するといったルールが重視されてきました。しかし、デジタルファーストが当たり前になった今、その考え方だけでは対応しきれません。
そこで私たちは、デザインを「ツールボックス」として設計しています。クライアントに提供するのは一つのロゴではなく、タイポグラフィやカラー、グラフィックシステムなど、さまざまな場面で柔軟に活用できるデザイン要素の集合体です。オンラインからオフライン、街中のサインまで、一貫性を保ちながら状況に応じて変化できるアイデンティティを構築しています。
私たちは、デザインには人や組織が本来持っている魅力を引き出し、それを社会へ伝える力があると信じています。だからこそ、クライアントの本質を見つけ出し、それをデザインによって増幅させることを何より大切にしています。
また、その力は社会をより良くするために使いたいと考えています。文化、音楽、劇場、アートといった文化的なプロジェクトを積極的に手がけているのもそのためです。近年はサステナビリティや循環型社会を目指す組織からの依頼も増えていますが、そうした社会的な意義のある活動こそ、私たちが最も貢献したい領域だと考えています。プロジェクトの規模は問いません。大切なのは、その取り組みが社会にどのような価値を生み出すかです。だからこそ、商業的な利益だけを目的とした仕事には積極的ではなく、社会をより前向きに動かすプロジェクトに対してこそ、デザインの力を注ぎたいと考えています。
課題から始め、モーションから発想する
プロジェクトはどのように進めているのでしょうか?
私たちは、プロジェクトの初期段階で他社のデザイン事例をあまり見せません。リファレンスを提示すると、「このデザインに近づけたい」という発想になり、結果として模倣につながってしまうからです。
その代わりに最初に行うのは、「現状の課題」をクライアントと共有することです。例えば空港や大規模な公共施設であれば、アプリやサイン計画、導線などを徹底的に分析し、「どこに問題があり、なぜ改善が必要なのか」を写真や図を用いて可視化します。まず課題を正しく理解してもらうことで、クライアントもコンセプトについて同じ目線で議論できるようになります。
プロジェクトでは、デザイナーやデベロッパーがPMを介さず、クライアントと直接対話することも大切にしています。オランダでは率直な意見交換が文化として根付いており、本音で議論することが認識のズレを防ぎ、より良いアウトプットにつながると考えています。
デザイン面で特徴的なのは、「モーション」から発想を始めることです。静止画だけで考えると、どうしても既存のパターンに収まりがちですが、動きや物理演算を起点にすることで、予想もしなかった形やリズムが生まれます。その偶然性が、デザインに新しい発見や独自性を与えてくれるのです。
また、制作したムードボードはクライアントには共有しません。画像だけを見ると、人それぞれ異なる解釈をしてしまい、意図しない方向へ議論が進む可能性があるためです。コンセプトが固まった段階で、できるだけ早く実際のデザインへ落とし込み、具体的なアウトプットとして提案することを大切にしています。

デザインで、社会を少しだけ良くするために
最後に、thonikが目指す組織や、これからの展望について教えてください。
私たちは、「誰も一人では働かない」という考え方を大切にしています。デザインは一人の才能だけで生まれるものではなく、チームで議論を重ねることで客観性が生まれ、より良いアウトプットにつながると考えているからです。
チームづくりにおいて重視しているのは、「世代を超え、文化を超え、学問分野を超える」という3つの軸です。ベテランの経験と若い世代の新しい技術、そして異なる文化や専門分野の視点が交わることで、固定観念にとらわれない自由な発想が生まれると信じています。また、年長者が若い世代に教えるだけでなく、若い世代から年長者が学ぶという、双方向の学びの関係を大切にしています。
また、会社をむやみに大きくしたいとは考えていません。全員の顔が見え、毎日一緒にランチを囲み、気軽に議論ができる15〜20人ほどの規模こそが、最も創造性を発揮できる理想のチームだと思っています。
私たちが目指しているのは、クライアントと一緒に悩み、ときには意見をぶつけ合いながら、デザインの力で社会の課題を解決することです。そうしたプロセスを経てこそ、25年経っても愛され続けるアイデンティティが生まれると信じています。
これからもデザインを単なる装飾ではなく、人や社会をより良い方向へ導くためのツールとして捉え、世界を少しだけ賢く、そして美しくする手助けを続けていきたいと考えています。

訪問したメンバーの声
石塚(アートディレクター / デザイナー)
今回の出張で、最初に伺ったのがthonikでした。
この出張を終えた今だからこそ思うのですが、アムステルダムで自社ビルを構えていることは本当にすごいことだと感じます。しかも天井が高く、窓もかなり大きくて自然光がたくさん入る開放感のある気持ちいい空間で、純粋に働きやすそうでした。
また、壁に自分たちの制作物を飾るスタジオは少なくないと思うのですが、thonikでは、これまで制作してきたグラフィックをクッションやラグにも展開していて、それがすごく新鮮でした。日本などで展示を行ってきたからそれを制作したとおっしゃっていましたが、制作物が空間の中で自然に使われている感じが良かったです。いつかやってみたいです。
ランチの時間も新鮮でした。みんなでパンや野菜を取って食べるスタイルで、日本のデザイン会社ではあまり見ない光景だった気がします。
制作物に関しては、良い意味でかなり王道なものが多く、グラフィックデザインそのものの強さと、制作に至るまでのストーリーによって成立しているアウトプットが多く、シンプルにかっこよくて「こういうものをつくりたい」と素直に思える仕事ばかりでした。
金(モーションデザイナー)
Studio thonikには、以前、知り合いがモーションデザイナーとして勤めており、スタジオについて話を聞いていたこともあって、今回のアムステルダム視察ではぜひ訪れたいと思っていました。
二人の代表が共同で率いるスタジオは決して珍しくありませんが、thonikのお二人の息の合った掛け合いはとても魅力的で、私たちはすっかり話に引き込まれてしまいました。ピッチの場でも、きっと百戦錬磨なのだろうなと感じさせるお二人でした。
特に印象に残ったのは、提案するアイデアは一つに絞り、ムードボードも自分たちで制作するという姿勢です。日本でいう、いわゆる「捨て案」のような、自分たちが進めたい方向へ相手の関心を誘導するための案は用意しないとのことでした。
また、オランダのクライアントは、リブランディングにあたって、自分たちのブランドコミュニケーションのどこに問題があったのかを率直に指摘されることを好むという話も印象的でした。日本ではなかなか考えにくいほど、クライアントとオープンな関係を築ける文化があることを、とても羨ましく感じました。
岡田(プロデューサー)
thonikで印象に残っているのは、個人的にはランチの時間でした。
お昼になると、メンバー全員がひとつのスペースに集まり、用意された食材を使ってランチを食べるそうです。それを毎日続けていると聞いて、すごく良い文化だなと感じました。僕もサラダを取ったり、サンドイッチを作ったりしながら、「こうやって作っていけばいいのかな?」と少しぎこちなく真似していたのですが、その様子を見て「ダッチっぽいね」と言われたのも、ちょっとした思い出として残っています(笑)
正直に言うと、訪問前はthonikについて深く知っていたわけではありませんでした。ただ、実際にお話を伺う中で、アムステルダム市内のビジュアルアイデンティティや、スキポール空港のロゴなど、街や社会の中で実際に機能している仕事を数多く手がけていることを知りました。
さらに印象的だったのは、彼らが手がけたものが、その後アムステルダムの街を歩いていると本当にいろいろな場所で目に入ってくることです。自分たちが作った制作物が、都市の風景の一部として自然に使われ続けている。その状態を実際に体感できたことは、仕事として本当に素晴らしいことだなと思いました。
もうひとつ強く印象に残っているのが、Thomasのプレゼンテーションです。今回、NikkiとThomasにインタビューさせていただいたのですが、特にThomasの話し方や伝え方の完成度が非常に高く、強く引き込まれました。
実績について「こういう背景があって、こういうことをやったんです」と語ってくれるのですが、そのプレゼンテーションの精度がとても高く、おそらくこれまで何度も登壇やプレゼンの場で話してきた内容なのだろうと感じるほど、説得力と迫力がありました。ひとりの営業・プロデューサーとして、自分も見習うべきところが多いと感じましたし、純粋に「さすがだな」と思いました。
坪井(プロジェクトマネージャー)
まず印象的だったのが、オフィスがとても豪華でキレイだったことです。自社ビルというだけでもすごいのですが、オフィス内にはこれまで手がけたプロジェクトのロゴやグラフィックを使ったグッズが飾られていて、それらに囲まれた空間はとても素敵でした。自分たちの仕事を大切にしていることが伝わってきました。
お伺いしたお話の中で特におもしろいと思ったのは、一つのプロジェクトから次のプロジェクトにつながり、その中で生まれたアイデアがまた別のプロジェクトに活かされる、という循環が自然に生まれていることです。良い仕事がまた次の良い仕事を呼ぶという流れは、長年第一線で活躍し続けている理由の一つなんだろうなと感じました。
また、ランチでは日本人デザイナーの中川さんともお話しすることができました。多国籍なメンバーが自然にコミュニケーションを取りながら働いている雰囲気もとても印象的で、「デザインは人と人をつなぐもの」というthonikの考え方は、仕事だけでなくチームづくりにも表れているように感じました。

さいごに
今回お話を伺って印象的だったのは、thonikにとってデザインは「美しく見せること」ではなく、「社会の課題を整理し、人と人、人と組織をつなぐための仕組み」だということでした。25年以上使われ続けるアイデンティティを生み出せるのは、流行ではなく本質と向き合い続けているからこそ。デザインの役割について、改めて考えさせられる時間になりました。
次回もお楽しみに!

